キヨシビルメンの巡回って、ビルの中を歩いてメーターの数字を書き写すだけでしょ?誰でもできそうやね。



半分正解で、半分不正解です。
作業自体は「歩いて、見て、書く」だけなんですが、巡回の本当の目的は「いつもと違う」に気づくことなんですよ。
ビルメンの仕事の中で、一番基本で、一番毎日やるのが巡回点検です。


正直に言うと、巡回の9割は何も起きません。ただ歩いて、メーターを見て、点検表に書いて終わりです。
でも、残りの1割で異常に気づけるかどうかで、ビルメンとしての価値が大きく変わります。実際、私も巡回のおかげで汚水があふれる寸前のトラブルを防いだことがあります(後ほど詳しく話します)。
この記事では、ビルメン歴10年以上・20棟以上の現場を経験してきた私が「巡回で実際に何を見ているのか」を現場目線で解説します。
- これからビルメンになる未経験者
- 配属されたばかりで巡回のやり方がよくわからない新人ビルメン
- 「巡回ってただ歩いてるだけでしょ?」と思っている人
ビルメンの巡回点検とは?
巡回点検とは、ビル内の設備を決まったルートで見て回り、正常に動いているかを確認する日常業務のことです。現場によっては「巡視」「日常点検」とも呼ばれます。
ビルメンの点検は、大きく分けると次の3つです。
- 巡回点検(日常点検):毎日ビル内を回って、設備の状態を確認する
- 月次点検:月1回〜隔月1回くらいの頻度で、設備をじっくり点検・清掃する
- 法定点検:法律で定められた点検。基本は専門業者が実施し、ビルメンは立ち会いをする
月次点検や法定点検が「決められた項目をじっくり調べる点検」だとすると、巡回点検は毎日同じものを見ることで、変化に気づくための点検です。



健康診断と体温測定の違いみたいなものですね。
年1回の健康診断(法定点検)も大事ですが、毎日体温を測っていれば「今日なんか熱っぽいな」とすぐ気づけます。巡回はこの体温測定の役割なんです。
巡回点検の1日の流れ
現場によって違いますが、私がこれまで経験した現場ではだいたい次のような感じでした。
- 回数:1日2回(午前・午後)が多い。宿直がある現場は夜間や早朝にも回る
- 所要時間:中規模のビルで1回30分〜1時間くらい。大規模施設だと数時間以上かかる場合も
- 見る設備:午前と午後で分けている現場もある(私がいた商業施設では、午前がポンプ・空調、午後が電気設備でした)
巡回ルートと点検項目は、現場ごとに用意されている点検表(巡回日誌)で決まっています。
新人が最初に覚える仕事は「ビル設備の巡回」
新人ビルメンが配属されて最初に覚えるのが、この巡回です。最初の数日〜1週間くらいは先輩と2人で回って、ルートと点検項目を覚えていきます。
ちなみに、一人で巡回できるようになるまでは、シフト上は半人前扱いです。早く覚えないと先輩の負担が増えるので、新人のうちは巡回を最優先で覚えましょう。



建物が大きくなればなるほど巡回ルートを覚えるのは大変になります。
シンプルなビルなら3回程度の巡回でだいたい覚えられますが、大規模なビルだと数週間くらいは先輩についてもらうこともあります。
いずれにしても、図面やメモを駆使して早く覚える努力をしたほうがいいですね。
なお、機械室や電気室などには鍵がかかっています。
新人の頃にやらかしやすいのが鍵の持ち忘れです。機械室の前まで来て「鍵がない…」となり、防災センターまで取りに戻ったりなんてことも・・。
どの部屋にどの鍵が必要かを覚えるのも、巡回の大事な仕事のうちです。
巡回で一番大事なのは「いつもと違う」に気づくこと
巡回の基本は五感を使って設備の状態を確認することです。
- 目:メーターの数値、表示灯、水漏れ、油漏れ、床の水たまり、サビ、扉の施錠
- 耳:モーターやポンプの異音(キーン、ガラガラ、キュルキュルなど)
- 鼻:焦げ臭いにおい、下水臭、薬品のにおい
- 手(触覚):振動や熱の変化 ※回転部には絶対に触らない
ベテランのビルメンは、目で見るだけでなく、耳や手の感覚も組み合わせて判断しています。「なんか今日はポンプの音が高いな」「いつもより振動が大きい気がする」という小さな違和感が、故障の前兆だったりするんです。
メーターは「書き写す」のではなく「比べる」
巡回では、電流計や圧力計などの数値を点検表に記録します。ここで大事なのは、前回の数値と比べることです。
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数字を書き写すだけなら誰でもできます。でも「昨日まで30Aだったのに今日は40Aある」と気づけるかどうかが、巡回の質を決めます。
なお、私の場合は数値が変だなと思ったら1年前の記録なども確認して、それでも違和感を感じたら実際の設備の状態をさらに詳しく確認するようにしています。



ちなみに圧力計は意外と壊れやすいです。
私も巡回中に「この圧力計、毎日まったく同じ数字だな…」と思って先輩に確認したら、針が固着して動いていなかったことがあります。
数字が変わらないのは安心材料ではなく、計器が壊れているサインってこともあるんです。
新人のうちは、数値に少しでも違和感を感じたら先輩に必ず聞くようにしたほうがいいですね。
【実体験】汚水ポンプが止まらない…巡回で見つけた詰まりトラブル
ここで、私が巡回で実際に異常を見つけた話をします。
汚水槽と汚水ポンプの仕組み
地下にトイレがあるビルでは、汚水を下水道に自然に流せないため、一度汚水槽という地下のタンクに溜めて、ポンプでくみ上げて排水しています。
汚水ポンプはフロートスイッチという水位センサーで自動運転しています。
- 水位が上がる → フロートが浮いてポンプが運転
- 水位が下がる → フロートが下がってポンプが停止
つまり、普段は「動いては止まる」を繰り返しているのが正常な状態です。
午前も午後もポンプが動きっぱなし
ある日の午前の巡回で、汚水ポンプが運転しているのを確認しました。この時点では「ちょうど水位が上がったタイミングかな」くらいに思っていました。
ところが午後の巡回で見ても、まだ運転しっぱなし。



普段は数分動いたら止まるポンプが、午前も午後もずっと動いている。これは明らかにおかしいです。
嫌な予感がして汚水槽のマンホールを開けて覗いてみると、水位がかなり上昇していました。
ポンプは動いているのに水位が下がらない。つまり、くみ上げた汚水がどこにも行けていない状態です。
調べてみると、原因はポンプの下流側の詰まりでした。ポンプは一生懸命くみ上げようとしているのに、出口がふさがっているので水位が下がらず、フロートがずっと「運転」の位置に浮いたままになっていたわけです。
もし気づかなかったら…
あのまま放置していたら、満水警報が鳴り、最悪の場合は汚水槽から汚水があふれていた可能性もあります。地下で汚水があふれたら、清掃も復旧も大ごとです。ポンプが空回りし続ければ、ポンプ自体の故障にもつながります。
ポンプが止まらないときに考えられる原因
汚水ポンプが運転しっぱなしになる原因は、主に次の3つです。
- 吐出側(下流)の配管が詰まっている:今回の私のケース
- フロートスイッチの不具合:ゴミや油が絡まってフロートが浮いたまま動かない
- 流入量が異常に多い:どこかで水が出しっぱなしになっている、漏水している、など



この件で学んだのは、「動いているか」だけでなく「普段と同じ動き方をしているか」を見ることの大切さです。
ポンプが動いていること自体は正常です。でも「午前も午後も動いている」のは異常。これは毎日巡回して、普段の動き方を知っているからこそ気づけることなんですよね。
汚水槽の中は、硫化水素や酸素欠乏の危険がある場所です。マンホールを開けて覗くときも顔を近づけすぎず、槽内には絶対に入らないでください。槽内の作業は専門業者の仕事です。
設備別の巡回チェックポイント
ここからは、設備ごとに巡回で見ているポイントを紹介します。現場によって設備も点検項目も違うので、あくまで一般的な例として参考にしてください。
電気設備(受変電設備・キュービクル)
- 電圧計、電流計の数値(前回値と比べて大きな変化がないか)
- 変圧器の温度計の数値
- 異音(変圧器の「ブーン」といううなり音がいつもより大きくないか)
- 異臭(焦げ臭いにおいがしないか)
- 表示灯、警報表示の状態
- 扉の施錠、小動物や雨水の侵入跡がないか



電気室は基本的に「見るだけ」です。盤の中を勝手に開けたり触ったりするのは厳禁。異常があれば電気主任技術者に報告します。
以下は、キュービクル(変圧器などが入っている箱のようなもの)内の電圧計や電流計の数値を記録しているイメージです。こういったメーターが大量にあるため、それらの数値を記録していきます。


空調設備(空調機・送風機)
- 運転状態、モーターの電流値
- ベルトの鳴き(キュルキュル音はベルトの緩みや劣化のサイン)
- 異常な振動
- ドレンパン(結露水の受け皿)に水が溜まりすぎていないか
- フィルターの汚れ(差圧計がある場合は数値も確認)
以下はダイキン製の空調機(エアハンドリングユニット)です。
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ポンプ・給排水設備
- 揚水ポンプや給水ポンプの運転状態、圧力計の数値
- 異音(ベアリングが傷むと「キーン」「ゴロゴロ」といった音が出やすい)
- 軸まわりからの水漏れ
- 受水槽、高置水槽の水位、マンホールの施錠
- 排水ポンプの運転状態(止まらない、動かないなど)
なお、飲料水の残留塩素の測定もビルメンの日常業務です。建築物衛生法の対象となる特定建築物では、遊離残留塩素を7日以内ごとに1回測定し、0.1mg/L以上あることを確認する決まりになっています。現場によっては毎日測定しているところも多いです。
以下は揚水ポンプの点検イメージです。ポンプに圧力計がついており、この数値も記入対象です。


排水槽まわり
- 汚水槽、雑排水槽の水位(マンホールから目視)
- 悪臭がしていないか
- 満水警報が出ていないか
排水槽の清掃は、特定建築物では6か月以内ごとに1回行う決まりになっています。清掃自体は専門業者が行い、ビルメンは立ち会いをします。
消防・防災設備
- 自動火災報知設備の受信機に火災表示や故障表示が出ていないか
- 消火ポンプの制御盤の表示
- 避難経路や防火扉の前に物が置かれていないか



避難経路や防火扉などは建物の共用部(お客さんも使う場所)にあります。
つまり、ビルメンが点検・巡回する箇所は機械室や電気室に限らず、建物全体が対象になります。(現場によって違いますが・・)
共用部
- 照明の球切れ
- トイレの水漏れ、詰まり
- 床の水たまり、天井のシミ(上階からの漏水のサイン)
- 扉や建具の不具合



照明の球切れはLED化が進んだ影響で、球切れ自体はほとんど起きなくなっています。
とはいえ、器具不良で照明が突然故障することもありますので日常の点検は必要です。
警報が出ても「現場を見る」まで判断しない
巡回の話とは少しずれますが、新人の頃に経験して勉強になった話をひとつ。
防災センターで待機していたとき、警報盤に「汚水槽故障」の表示が出ました。現場のポンプ制御盤まで行ってみると、満水の警報が出ています。
ところが、マンホールを開けて汚水槽を覗いてみると、水位はまったく高くなっていませんでした。



「満水警報が出ているのに満水じゃない」ということは、水位を検知しているフロートスイッチの方に問題があるということです。
このときは、フロートの状態を確認して調整することで復旧しました。
警報はあくまで「回路がそう判断した」というだけです。警報が出たら、必ず現場で実物を見て確認する。これも巡回と同じで、ビルメンの基本です。
異常を見つけたときの対応
巡回中に異常を見つけたら、次の流れで対応します。
- 安全を確保する(感電・転倒・有毒ガスなどの危険がないか)
- 状況を確認して写真を撮る
- 上司や防災センターに報告する
- 指示に従って応急処置をする(自己判断で無理をしない)
- 専門業者に対応依頼をする
※お金がかかる作業の場合、オーナー会社の許可が必要です。 - 点検表や日報に記録する
報告のときは、具体的に伝えるのがポイントです。
- 悪い例:「なんかポンプが変な音してました」
- 良い例:「地下2階の1号揚水ポンプから金属がこすれるような音がしています。電流値はいつもより高めです。今も現場にいるので、いったん2号を単独運転に切り替えるか指示をお願いします。」
いつ・どこで・何が・どうなっているかを、その場ですぐに伝えれば、先輩も判断しやすくなります。



一番やってはいけないのは「気のせいかな」と思って報告しないことです。
結果的に何もなくても、報告して怒られることはまずありません。逆に、気づいていたのに報告しなかった方が大問題になります。
巡回に持っていく道具
私が巡回のときに持っているものを紹介します。
- 懐中電灯(機械室や天井裏は暗い。ヘッドライトもあると便利)
- 点検表、ボールペン
- 鍵(必要な鍵を忘れずに!)
- スマホ(写真撮影用。現場のルールに従って使用)
- 軍手など手の保護具
- 会社携帯や無線(防災センターと連絡を取るため)
現場によっては、放射温度計やクランプメーター(電流を測る道具)を持ち歩くこともあります。
私が実際に使っている工具は以下の記事で紹介しています。


まとめ:巡回は「毎日同じものを見る」からこそ意味がある
巡回点検は、ビルメンの仕事の中で一番地味な作業です。9割の日は何も起きませんし、慣れてくると正直つまらなく感じることもあります。
でも、私が汚水ポンプの異常に気づけたのは、毎日同じポンプを見ていたからです。「いつもは止まっているはずのポンプが動いている」という違和感は、普段の状態を知っている人にしか気づけません。
- 巡回の目的は「いつもと違う」に気づくこと
- 五感(目・耳・鼻・手)を使って確認する
- メーターは書き写すだけでなく、前回値と比べる
- 「動いているか」だけでなく「普段と同じ動き方か」を見る
- 警報が出たら、必ず現場で実物を確認する
- 異常に気づいたら、気のせいでも報告する



ただ歩いてるだけやと思ってたけど、ちゃんと意味があったんやね。



そうなんです。巡回をしっかりやれる人は、トラブル対応も早くなりますし、先輩からの信頼も得られます。新人のうちは、まず巡回を完璧にこなせるようになることを目指してください!
ビルメンの仕事内容全体を知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。


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