ビルメンテナンスにおいて「停電作業」は、電気設備を安全に保守・点検するために欠かせない重要な業務です。
これは定期的な法定点検の一環であり、特に受変電設備の精密点検や絶縁抵抗測定などを行うために、ビル全体または一部の電気を計画的に止める作業を指します。
しかし、停電作業といってもその内容は一様ではありません。
ビルメンが担当する範囲は、現場によって大きく異なります。
たとえば
- ある現場では、事前のお知らせ文をテナントに配るだけ。
- また別の現場では、実際に分電盤を操作したり、絶縁抵抗の測定を行うことも。
私自身もこれまで複数の現場を経験してきましたが、以前の現場ではブレーカーの投入・遮断や低圧回路の絶縁抵抗測定など、主に現場作業に関わることが多く、作業当日は緊張感のある対応が求められました。
一方、現在の現場では、オーナーとの打ち合わせや作業計画の立案、電気設備更新の提案といった事務・管理寄りの業務が中心です。
このように、停電作業と一口に言っても、現場ごとに求められる役割はまったく異なります。
この記事では、これからビルメンを目指す方や経験の浅い方に向けて、
- 停電作業が必要な理由
- 停電作業の基本的な流れ
- ビルメンに求められるスキルや注意点
などについて、実体験を交えながらわかりやすく解説していきます。
停電作業とは何か?なぜ必要なのか?

停電作業は、ビルの電気設備を安全かつ確実に点検・整備するために、電気事業法におい年に1回実施が義務付けられている法定点検です。なお、停電作業の呼称については「停電作業」以外にも「年次停電作業」「年次点検」など現場によって呼び方が違う場合があります。

条件を満たすと点検の間隔を伸ばすことが出来ます。
停電作業の主な目的は、電気設備の不具合を早期に発見し、火災や全館停電、さらには近隣ビルへの影響(波及事故)を未然に防ぐことにあります。
もし電気設備に不具合があれば、突然停電したり、場合によっては火災が発生するなど、ビルの利用者に大きな迷惑をかけることになります。だからこそ、1年に1回は必ず停電して点検をしなければなりません。
また、変電設備などで老朽化した機器の交換も停電中でなければできないため、更新作業も停電作業に含まれます。
- 高圧交流不可開閉器(LBS) 屋内用:15年
- 断路器:20年
- 避雷器:15年
- 高圧交流遮断器: 20年
- 計器用変成器: 15年
- 保護継電器:15年
- 高圧新相コンデンサ:15年
- 直列リアクトル:15年
- 高圧配電用変圧器(トランス):20年




このように、停電作業はビルの安全運用に欠かせない重要な業務であり、日常点検や月次点検と連携して電気設備全体の状態を把握するための絶好の機会でもあります。
ビルメンが実際に行う停電作業の内容とは?


それでは、ビルメンが実際に行う停電作業の内容について紹介します。
ですが、その前に高圧と低圧の違いを知っておきましょう。
ビルの電気設備には、「高圧」と「低圧」という2つの電圧区分があります。
これは作業内容を理解するうえでの前提になる知識です。
- 高圧(600Vを超える電圧):主に受変電設備などで使われる。
- 低圧(600V以下の電圧):テナントや共用部など、日常で使用する照明・コンセントなどに供給される。
ビルではまず、高圧で受電してそれをトランス(変圧器)で低圧に変換して各所へ分配しています。
このため、停電作業では
- 高圧側の操作(UGS・遮断機・断路器の操作など)
- 低圧側の操作(分電盤の絶縁抵抗測定など)
というように、作業の内容が電圧区分によって大きく分かれます。
上記内容を見ても未経験者の方にはよくわからないと思いますので、とりあえず「低圧=危険」「高圧=かなり危険」くらいの認識でOKです。
それではビルメンが行う可能性がある停電作業に関わる業務を紹介します。
高圧受電設備の操作【高圧側】
私が経験した現場だと、電気主任技術者を自社(ビルメン会社)で選任していた現場において、高圧受電設備の操作をやることがありました。



電気主任技術者とは、その施設の電気設備において最高責任者のことを指します。
【関連記事】電気主任技術者とは
遮断機とLBSの開放
通常、負荷電流を遮断するために遮断器またはLBSを操作します。遮断器でメインの遮断を行い、必要に応じて分岐ごとのLBSも開放します。(現場によってルールが異なる場合があります。)
UGSの開放
負荷側を遮断した後、UGSを開放してビル設備を電力会社側から切り離します。これにより、波及事故を防ぎ、ビル内の作業が外部に影響を及ぼさない状態にします。
UGS(Under Ground Switch)とは、ビル内で電気事故が起きた際に他の建物への影響が及ばないよう遮断する設備です。UGSがないビルで波及事故を起こすと、損害賠償が数千万円単位になることもあり、この設備の操作は非常に重要です。
断路器の開放と二次側での短絡接地
最後に、断路器を開放した後、断路器の二次側で短絡接地を行います。これは、作業対象の電路を意図的に短絡させ、接地することで、万が一誤って電圧がかかった場合でも、作業者に危険が及ばないようにします。
これらの操作により、作業中の安全を確保します。
高圧操作は特に危険を伴うため、必ず作業前にビルの電気主任技術者に確認し、指示に従うことが義務付けられています。
高圧側の操作を行う現場は少ないため、あまり気にしすぎる必要はありません。しかし、ビルメンとして働く以上、高圧側にどのような設備があり、どのような用途で使われているのかを理解しておくことは非常に重要です。
低圧受電設備の操作(絶縁抵抗測定)【低圧側】
低圧側の絶縁抵抗測定をする現場は数か所ありました。
絶縁抵抗測定は、電気回路の絶縁状態を調べるための検査で、主に「メガー」と呼ばれる専用の測定器を使用します。絶縁とは、電線や機器の内部で電気が漏れず、正しく安全に通電している状態を指します。この測定により、配線や機器の劣化や損傷による漏電の有無を早期に発見し、火災や感電事故を防ぐことができます。


メガーは、測定回路に一定の直流電圧を印加し、絶縁抵抗値を測定する装置です。測定結果の抵抗値が一定の基準を上回っていれば、正常な絶縁状態と判断されます。
測定の手順は、まずメインの低圧回路に対して絶縁抵抗を測定します。もし抵抗値が基準を下回る場合は、分電盤単位やさらに細かい回路ごとに測定を行い、不良箇所を特定します。これらの測定作業は、必ず電気主任技術者の指示に従って実施します。
絶縁抵抗測定を行う際は、必ず対象回路のブレーカーを切り、回路に通電していないことを確認してから測定します。また、測定結果は記録し、測定値が悪い箇所は報告をし原因を特定するようにします。


停電作業で扱えたほうが良い計測器と必要スキル


停停電作業に限らず、日常業務でもビルメンが使いこなすべき基本的な電気系の計測器は以下の4つです。これらの機器を正しく扱えることは、現場でのトラブル対応や点検作業において非常に重要です。
メガー(絶縁抵抗計)
電路の絶縁状態を確認するための専用機器です。絶縁不良があると感電や火災の原因になるため、点検や停電作業時には必ず使用します。使い方を誤ると機器の破損や誤測定につながるため、正しい手順を確実に身につける必要があります。


テスター
電圧・抵抗などを測定できる多機能計測器です。ブレーカーの電圧確認や導通チェックなど、点検や故障対応の場面で幅広く使われます。


クランプメーター
回路を切断せずに電流を測定できる計測器です。配線にクランプを挟むだけで測定できるため、主に配電盤の点検や漏電調査などに使用されます。多くのモデルでは電圧や抵抗の測定機能も備えています。
検電器
回路に電圧が印加されているかを安全に確認するための機器です。機器に触れる前や、通電の有無を即座に判断したいときに用います。電気工事をするときは、基本的にブレーカーをオフにして回路を停電させてから作業するのが原則です。そのための確認作業として、検電器による確認は必須です。
これらの計測器を使えないと、ビルメンとしての基本的な電気業務の遂行が難しくなります。未経験者のうちは不安もあるかもしれませんが、現場で積極的に先輩や電気主任技術者に教わりながら、実際に触れて操作に慣れていくことが大切です。



上記で紹介した計測器は現場に用意してある場合がほとんどなので、わざわざ自腹で購入する必要はありません。
もし自腹で購入するのであれば、テスターと検電器があれば十分です。(余裕があればクランプメーターも)
停電作業での重大注意点
停電作業は、普段の点検とは比べものにならないほど緊張感のある業務です。作業手順をひとつでも間違えると、設備トラブルやクレームにつながるリスクがあります。ここでは、実際に現場でよくあるミスや注意点を紹介します。
ブレーカーの戻し忘れ
絶縁抵抗測定を行う際は、対象回路のブレーカーをいったん切ってから測定を行いますが、復電時にそのブレーカーの戻し忘れが起こることがあります。このミスは毎年どこかの現場で必ず起きていると言っても過言ではありません。
別現場のビルでは、テナントが出社してから「普段使えている電気機器が使えないと」強いクレームを受けた事例があります。原因は、停電作業後に一つの分電盤ブレーカーが復旧されていなかったことでした。こうしたミスは、電気主任技術者からの叱責だけでなく、テナントの信頼を失うことにもつながります。
作業時には「切ったらラベルを貼る」「戻したらチェック表に記入する」といったチーム内でのダブルチェック体制を徹底することが重要です。どんなに経験を積んだ人でも、疲れていたり集中力が切れていると簡単にミスします。明日は我が身という意識で臨みましょう。



停電作業はテナントがいない夜間に行われることも珍しくなく、ビルメンや電気工事業者たちは眠気に耐えながら作業するため、集中力が切れがちです・・。一応、停電作業前はなるべく寝ておきますが、なかなか睡眠をコントロールするのは難しいのが現実です。
狭く暗い場所での作業
ビル全体が停電している間は照明も消えているため、作業環境としては非常に不便で危険も伴います。
一応、発電機などを用意して仮設照明などで照らしますが、すべての点検箇所に仮設照明を用意することは出来ないため、ヘルメットにつけたヘッドライトや携帯用ランタン、懐中電灯などを使って作業しなければいけない箇所もあります。
暗い場所での作業はミスも起こりやすく、関係無い箇所にメガーをかけてしまったり、メガーの測定レンジを間違えてしまうといった話もよく聞きます。
停電作業は「当日だけの仕事」じゃない 〜事前準備がビルメンのメイン業務〜


停電作業というと、当日のブレーカー操作や絶縁抵抗測定など、現場での技術的な作業ばかりに目が行きがちです。しかし実際には、作業当日を迎えるまでの段取りこそが、ビルメンの腕の見せどころと言えます。



設備の点検なども大事ですが、ビルメンにとって一番大事なの仕事は、ビルオーナー、テナント、業者の間に入って調整を行うことだと私は考えています。
停電作業は大掛かりな業務なので、この調整業務がとても大事です。
まず重要なのは、テナントへの周知です。商業施設やオフィスビルでは、停電によって空調・照明・エレベーターなどがすべて停止するため、業務に多大な影響が出ることがあります。そのため、「いつ、どの範囲が、どれくらいの時間停電するか」を正確かつ丁寧に伝えることが求められます。
以前の現場にいた高齢の先輩ビルメンは、こんな話をしていました。
「昔、通知文を“ざっくり作って配った”ら、後日『冷凍庫が止まって中身が使い物にならなくなった。どうしてくれるんだ!』って大騒ぎになったんだ。停電の影響を軽く見てた自分のミスだったよ」
おそらく現代では考えられないミスだと思いますが、昔のビルメンは考えがゆるい人も多かったのか、このようなトラブルもあったみたいです。
ちなみに、私が現在働いているビルでは、停電作業の2か月前と1か月前の計2回、テナントの中で一番偉い人(店長など)に直接訪問し、作業内容の説明や注意点を伝えています。(パソコンの電電を抜く、冷凍・冷蔵商品はドライアイスなどで対応するなど)
また、点検に合わせて設備更新や部品交換の工事を行う場合は、事前に業者と打ち合わせをし、ビルオーナーの承認も得ておく必要があります。特に高圧機器の更新や幹線工事などは、関係者が多くスケジュール調整も難しいため、半年以上前から動くことが一般的です。



高圧のトランス1台更新すると1千万円近くの金額になることもありますので、予算の都合上ビルオーナーへはもっと前に伝えないといけません。
そのため、私のビルでは受変電設備の長期更新計画を作成し、定期的にビルオーナーに伝えるようにしています。
こうした調整業務は、現場ビルメンというより「小さな現場責任者」のような役割が求められます。ですが、これをしっかりやっておくと、当日の作業がスムーズに進み、トラブルも起こりにくくなるのです。
未経験者は準備しておくことは?
停電作業に初めて関わる未経験のビルメンにとって、「自分に何ができるのか?」「何を覚えておくべきなのか?」と不安に感じるのは当然です。ですが、最初からすべてを完璧にこなす必要はありません。現場で求められるのは、「基本を押さえておくこと」と「わからないことをそのままにしない姿勢」です。
以下に、未経験者が停電作業に備えて最低限押さえておきたいポイントを紹介します。
1.絶縁抵抗測定の基本を理解する
停電作業で未経験者が任されやすいのが「絶縁抵抗測定」の補助です。
使用するのは「メガー(絶縁抵抗計)」という機器ですが、操作そのものは難しくありません。
とはいえ、測定対象外のの回路にメガーを当てると、機器の故障や感電のリスクがあります。
そのため、あらかじめ以下の点を頭に入れておきましょう:
- ブレーカーを切ってから測定する(必須)
- 測定対象が間違っていないか、指示者と確認する
- 測定後はブレーカーを元に戻す or ラベルを貼る
社内に教育マニュアルがある場合は、空き時間に目を通しておくとスムーズです。
2.基本的な計測器の使い方を覚えておく
先ほども測定器の紹介をしましたが、停電作業では以下のような測定器を使用することが多いです。
- メガー(絶縁抵抗計)
- テスター(電圧・導通確認)
- 検電器(通電チェック)
普段の点検業務でも出番が多いため、停電作業の有無にかかわらず基本的な使い方は覚えておきましょう。
「電気の測定器なんて触ったことがない…」という方でも、先輩にお願いして現場で触らせてもらえば、だんだん慣れてきます。
3.停電当日の流れを事前に把握しておく
「何をやるのか分からないまま停電作業当日を迎えてしまった…」というのが一番危険です。
未経験者は、事前に作業手順書や過去の実施報告書を見せてもらうことをおすすめします。
また、現場によってはミーティング(事前KY/リスクアセスメント)を行うこともあります。
このとき、自分の担当業務とそのリスク、確認事項をしっかりメモしておきましょう。
4.質問・報告・確認を徹底する
未経験者に最も重要なのは、「分からないことは必ず聞く」「異常があればすぐ報告する」ことです。
電気は目に見えないため、小さなミスが大事故につながることもあります。
たとえば
- 「このブレーカー切っていいですか?」と一声かける
- 「絶縁抵抗が規定を下回っていた」とすぐ報告する
- 「この器具が分かりません」と正直に言う
こうした行動が、停電作業を安全に進める上で一番の武器になります。
5.前日はしっかり休む
停電作業は夜間に行われることも多く、集中力を欠いた状態で臨むとミスを起こしやすくなります。
前日はなるべく早く帰って、しっかり睡眠をとるようにしましょう。
ヘタ・レイのひとこと
正直に言えば、未経験者は停電作業であまり難しいことは任されません。
でも、「誰かの作業をサポートする役割」だとしても、手順を理解し、準備ができていれば現場から信頼される存在になれます。
まずは「ミスをしない・報告をしっかりする」を心がけて、少しずつ経験を積んでいきましょう。



私も持っていますが、以下の本は停電作業の流れを把握するのにおススメです。測定器の使い方などもわかりますよ。
まとめ


停電作業は、ビルの安全と安定稼働を維持するための法的義務であり、ビルメンにとって欠かせない重要な仕事です。
高圧受電設備の複雑な操作から、日常業務に直結する絶縁抵抗測定まで多岐にわたる作業を正確に行うためには、メガー、テスター、クランプメーターなどの計測器操作が必須スキルです。
また、作業中のブレーカー戻し忘れといったミスは信用問題に直結するため、細心の注意が求められます。
未経験者は「分からないままにしない」姿勢で積極的に学び、経験豊富な電気主任技術者や先輩からの指導を受けながら確実に技術を身につけていきましょう。
なお、記事の冒頭でも話しましたが、現場によってはほとんど停電作業に関わらないところも存在します。そのため電験三種を取得したから「自分は電気の仕事がしたいんだ!」みたいな人は、ビルメンにならずに電験三種を活かせる職種に就いたほうが確実です。
以下の記事では、電験三種を活かした転職にお勧めの転職サイトを3つ紹介していますので、絶対に電気の仕事がしたいという方は利用してみてください。


本記事がビルメンテナンス業界を目指す方や停電作業の理解を深めたい方に役立つことを願っています。
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